ECHO あしたの畑ー丹後・城崎

EXHIBITONFOOD

数千年の歴史を奏でる日本海、隣接する豊かな土地は大陸からの人々を迎える港であり、畑であり、田んぼ、弔う墓、祈りの祭祀場が土地に溶け込んだ風土となって、今生きる私たちを見つめています。生と死が行き交う人生という旅の中で、広野(こうや)は海から連なる空のもと、人と自然の歴史の層を刻み続けてきました。

 

ECHOは、集落構想「あしたの畑」において、本来芸術の役割であろう心田を耕す「境界のない芸術を体感する広野」に轟く心の声=ECHOをメインテーマとしました。地域住民と国内外から丹後を訪れる人々の心に響き、活動を担う人材の成長の場となり、上質な芸術と恵まれた自然環境により次世代を担う子どもたちの感性を恒常的に養う場となることを胸に展開する試みです。

 

 

<展示作品(一部)>

サムソン・ヤン《メッセンジャーズ》
ジェネラティブ・ビデオ、PLAにアクリル絵具、転用したマイクスタンド、転用テキスト(康熙帝『聖諭広訓』、聖徳太子『十七条憲法』、プタハへテプ『訓戒』)、LCDスクリーン、カスタムソフト

 

竹野神社三の鳥居から本殿につながる中門に向かう参道には、エジプトやギリシャ、中国など各地の古代文明において異界からの使者とされた鳥達が「メッセンジャーズ(使者)」として来場者を迎えます。いわば、音のないサウンドインスタレーションである本作は、ソフトウェアによる無作為的自律過程によって、周囲の森と共鳴し合うかのように、変容し続ける映像を映し出します。

サムソン・ヤン
《古代の呪文(LOLE: 囚われの身とならないために)、(DE.EL.X:良心の浄化)、(buoni jacum:敵から身を隠す)、(GABRIOT:何処にでも連れて行ってくれる馬)》2022年、ペン・紙
《DAO(管腔空間)、(枠の支えを外す)》2022年、インク・色鉛筆・パステル・スタンプ・紙

 

中門に位置する絵馬殿には、かつて祈りを込めて壁を飾った絵馬に変わり、治癒を願う古代のまじないから着想を得たドローイングと、竹野神社で聴こえる音を視覚化した作品が展示されています。

安東陽子《布(帆)》
丹後ちりめん

 

丹後ちりめんの織り上がりである生機(キバタ)を使い、食の祭会場の日除けが制作されました。セリシンを落とす前の生機に撥水加工をかけ、織幅のサイズのままに縫製しています。できる限り自然素材を使用した空間、会場づくりを目指した本展での新しいチャレンジの一つとなりました。

食の祭会場構成:TOMORROW(監修:西沢立衛建築設計事務所)

限りのある生命の中で、異業種、異文化の交流により、感動と感謝の心を育む芸術文化活動の創出を目指し、間人において、いずれは常に人によりそう機能(ラボラトリー)に育つことを願い、2022年7月22日から8月21日の約1ヶ月間、期間限定で食とアートと地域が連携する野外での食インスタレーション(芸術的価値を有する建築・環境作品を兼ねた食の提供の場)を展示しました。

この活動の実現により、コロナが収束してから海外と地域との交流とアート、食、音楽など主に海外からの表現者がひと地域で中長期を過ごすことでこれからの時代を生きる人に希望と安らぎを与える作品創出への支援として、あしたの畑の構想では今後、滞在場所(レジデンス)の創出を計画しています。

生きながらにしてもう存在してはいけないような心境に追い込まれている全世界の人々がもう一度、心を動かし始める感受性を表現者もそれを受け止める側も育むことができるには、感動する体験が不可欠であり、総合芸術により人と人が向き合う場を生み出したいという願いが、ECHOに込められています。

2022年の夏、ECHOを開催するにあたり、現実とこれは夢なのか?と疑いたくなるような自己欲望を満たす経済活動の故の環境破壊、ゆきすぎる資本主義の中に生きなければならない今、限りある生命を少しでも有意義に、そして奇跡の星・地球を次世代に健やかに受け継ぐために芸術文化活動と人と人がつながる機会を作り、感謝し、支え合う心となるきっかけとなることを願い、各種プログラムを企画、実現を目指しました。

 

開催概要

■会期:  2022年7月22日(金)―8月21日(日)
■会場:  竹野神社、城崎温泉三木屋、間人スタジオ
■入場料: 有料(一部無料)
■主催:  NPO法人TOMORROW、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
■後援:  京都府、海の京都DMO、京丹後市
■協力:  KISSUIEN Stay & Food、ギャラリー小柳、田勇機業、Heron、
京丹後市未来チャレンジ交流会センター roots
■委託:  令和4年度日本博主催・共催型プロジェクト

 

 

<展示作品>

幅允孝《ライブラリー》
竹野神社の古材、銅、書籍

 

地域唯一の神社である竹野神社に代々伝わる書籍と現代の図書を幅氏が選書し、構成した期間限定の図書スペースをオープン。歴史のみならず、料理、宗教、建築、文化など様々な入り口から丹後について、丹後と世界とのつながりについて、学ことができます。図書が置かれた本棚は、竹野神社に眠っていた古材を組み合わせ作られています。

田中義久《地図》
杉板にUV印刷

 

ECHO開催地、丹後・城崎の地域と海や大陸との関係を表した地図。丹後の日本海に面する集落で使用されている焼杉から着想を得た黒い杉板を素材として採用しています。来場者自身が今立つ場所と、かつては一つの文化圏を形成していた丹波、丹後、但馬の地方の関係性を視覚的に捉えられるよう、展覧会入口に設置されています。

須田悦弘《ホトトギス》
木に彩色

 

竹野神社に咲くホトトギスという花から着想を得た本作は、本殿に捧げる用に拝殿に展示されています。日本、朝鮮半島を原産とするホトトギス(杜鵑草)は、古来より「霊鳥」とされてきたホトトギスと同様に格調が高い花として愛されてきました。そこには、拝殿で奉納された雅楽と同様に大陸と日本、間人の地とのつながりが想起させられます。

嘉戸浩・田中義久《間人紙の襖》
間人紙(間人の土)

 

京丹後の土を混ぜ込んで作ったあしたの畑オリジナルの和紙《間人紙》に、同じ土を顔料とした「具引き」を施し、襖紙を作り上げました。美術家、デザイナーである田中氏と、唐紙師である嘉戸氏が率直に向き合いながら、その可能性を広げてきた紙という素材を、建材に展開する試みの第一歩。《間人紙》は襖の他、市場販売商品のラッピングペーパーとしても使用されています。

安東陽子《暖簾》
緯糸の引っ越し、オーガンジー

 

緯糸の水撚り八丁撚糸は、丹後ちりめんの特徴の一つです。京丹後の織工場(田勇機業)を訪れた安東氏は、制作工程で緯糸を変える「緯糸の引っ越し」の際に出る端材に出会い、作品素材として再生しました。再び息を吹き込まれた絹糸は、ほのかな紫色を纏ったオーガンジーで覆われています。

新里明士《木霊》
白磁

 

通常非公開である竹野神社の神域には、古来より植生が保たれた木々が人々の祈りが込められた祠と共に今に伝わっています。樹木に宿った人々の想いを後世の人が再び受け取るように、そこには自然と人間との響き合いがあるといえるでしょう。素材と作家の身体、作家と場所、神域に点在する作品同士が木霊しあう関係からは連なる輪としてあらたな波紋が現れ、森の息づかいと呼応し始めます。

佐藤聡《記憶》
杉(中川周士作の板にガラス印)

 

竹野神社本殿の南の山上には、かつて愛宕(火神)の祠が存在し、今でもその跡をみることができます。本作は、炉から出したばかりのガラスを、中川周士の杉板に焼き付けることで生み出されました。流れゆく時を想起させるガラス作品を手掛ける作家が木材という変容し続ける素材を扱う作家と共に取り組んだ二人の共作でもあります。

中川周士《申(shin)》
杉、檜

 

竹野神社本殿の北に位置する神域には、水神の祠がありました。かつて滝が流れていたその岩肌には、今も雨の後に滝が顕れます。神域内には火神を祀った祠も見つかり、陰陽の思想に行き着いた中川は、天と地、日と月、火と水のように、自然と人間とは、お互いに対立、依存し呼応し合うことで形成されていくことをあらためて強く意識したといいます。

佐藤聡《祈り》
ガラス

 

《記憶》の制作過程から生み出されたガラスによる本作は、本殿に奉納するように展示されています。杉板が熱をもったガラスの記憶を留めるのと同様に、ガラスには杉板が内包する時間が遷されているようです。作家が近年取り組んでいる、水や空気のようなガラスの自由で自然な形を引き出そうとする試みにも通じる作品です。

西沢立衛建築設計事務所《納屋》
檜、合板

 

本展の核でもある「食の祭」の会場構成を監修した西沢氏による納屋。会場周辺の宮地区の家屋でも使用されている焼杉を建材として用いることで、新鮮でありながら集落の風景の一部となっています。

サムソン・ヤン《適正な音楽(リリカ)》

ヴィオラ、調律を狂わせたヴィオラ、トライアングル、グラスハーモニカ、録音ブースにパステル(演奏:ウィリアム・レーン)、シングルチャンネル・ヴィデオ(ステレオサウンド)、17分3秒

 

ヴィオリストであるウィリアム・レーンのために、ヤンが作曲した楽曲の録音風景を捉えた作品。録音ブースの中で演奏され、一人の鑑賞者がブースの窓から聴くことを想定して作曲されたものです。叙情的な要素を持つ楽曲をかつては精神疾患を引き起こすと信じられていたグラスハーモニカ等の楽器で演奏され、時折、ヴィオリストは口笛や弓を弾きながら自身との二重奏を奏でます。

嘉戸浩・田中義久《間人紙》
間人紙(間人の土)

 

フィールドワークを通じて見つけた京丹後の土を混ぜ込んだ、あしたの畑のオリジナル和紙「間人紙」が襖紙として使用されています。その土地の自然素材を建材として使用した棲家、これからの暮らしの在り方を探る間人スタジオの一階に設置され、来場者を出迎えます。

須田悦弘《朝顔》
木に彩色

 

創業から300年の歴史を重ねてきた日本旅館三木屋は、文豪志賀直哉が幾度となく逗留し、名作短編「城の崎にて」が生まれた宿。須田は三木屋に滞在し、志賀直哉著『朝顔』から着想を得た作品を制作しました。志賀が窓外の生き物の姿から生死について思念を深めた客室に、幻の朝顔「團十郎」が息吹をもたらしています。

聖徳太子1400年遠忌記念 雅楽公演

 

雅楽は、1400年前、中国・朝鮮半島より大和朝廷にもたらせられた起源を持つと言います。 2022年は聖徳太子の1400年遠忌にあたり、6世紀末、太子の母・間人皇后が、蘇我氏と物部氏の争乱を避け、しばらくのあいだ滞在していた間人(たいざ)において、奉納の祝詞に続き、安寧を祈る雅楽を、天王寺楽所雅亮会に竹野神社拝殿を舞台として、披露いただきました(天王寺楽所雅亮会副理事長 小野真龍氏による解説付)。